次世代の「きもの」 理事長コラム

古く中国から入って来た呉服の世界。長年かけて進化を遂げ、ここまで「きもの文化」は育って来た。呉服が入る前は樹木繊維を中心に、筒袖筒袴風の貫頭衣であった。奈良朝時代に入り、中国との交流も深まり、政治経済宗教などが日本に入り込み、大きく変化した。それらと一緒に衣食住文化も中国の影響を受け、上流階級の生活から変化をし始めた。

日本の染織文化は呉服が入るまでは樹木などの繊維を糸にして平織など単純な織物であった。しかし、中国から入って来た「絹」文化はあっと言う間に衣文化に影響を与え、後の平安時代には京都を中心に高度な染織工芸が築かれていった。

日本の呉服の原点はまさに中国から始まったのである。現在では日本の伝統文化とは言っているが、その原点は文化輸入国日本における文化吸収力そのものであった。

その後、呉服という言葉は中国から入って来た絹工芸品の代名詞的存在、現代風に言えば高級シルクブランドと言えよう。絹以外には染織技術として錦・綾・紗・羅・間道・風通などの高度な織技術。そして本格的な養蚕技術である。

平安・鎌倉・室町と日本に入って来た染織技術や文化は国風化され、上流階級から中流階級まで浸透してくる。しかし、それはあくまでも日本人口のごくわずかの人々の衣文化であって、一般庶民は樹木繊維の麻が中心であった。

しかし、時代の大きな変化が室町末期に訪れた。ヨーロッパを中心にした大航海時代の幕開けである。新大陸やアジアを求めて、航海船が大海原を風にのり、アジアやアメリカへと渡って来た。日本はかつて宋の時代に「黄金の国」とマルコポーロによって欧州に紹介され、ポルトガル船がまず渡来した。その当時のヨーロッパはアジアに対して交易とキリスト教の布教による植民地化を計画していた。フランスシスコ ザビエルの種子島到着から幕は上がる。博多や堺を中心に南蛮船が寄航。数多くの貿易品を日本に運んで来た。まだ、観たこともないようなヨーロッパ・アジアなどの工芸品・染織品・食料品、そして宣教師。日本の染織文化には大きな転換期があります。1つは正倉院を中心にした中国・朝鮮の文化。そして明治に入っての欧米文化。最も影響を与えた南蛮文化。以外と知られていないのが南蛮文化である。南蛮といっても南蛮という国はない、ヨーロッパ人たちが西アジアを経由、東南アジアから日本に到着するルート全体を南蛮といい、そのルートを航海した船が南蛮船。運ばれて来た交易品が南蛮文化になる。時の戦国乱世を大きく左右したのも、南蛮文化である。特にこの南蛮貿易に注目したのは千利休であり、それを利用したのが織田信長である。

江戸時代にほぼ行き渡った庶民の染織文化は、この南蛮文化に因るものと言っても過言ではないだろう。日本では「きもの」を伝統文化並びに世界に誇る染織文化・民族衣装と自慢しているが、その成り立ちを知る人は少ない。日本の「きもの」は日本独自で育ったものではなく、長年歳月をかけ、世界の染織技術の融合体である。繊維や染織にしてもすべては海外から学び改良を加えたものである。日本特有の加工文化の典型かもしれない。すごいのは呉服という言葉が1400年間も続いていることだろう。和服という言葉はまだ定着はない、それは明治になって呉服を服とただ言っていたものを西洋服が登場し、その差別化のために和服と称した。まだ130年ほどしか経っていない。日本の伝統文化とは世界の染織技術を融合させることであり、それを頑なに守り続けた国民性が民族衣装を創り上げた。と言うより、江戸時代の鎖国が日本の民族衣装を守ってくれたのだろう。その証拠に明治に入ってからは、世界に誇る民族衣装が傾きかけ、現在では日常「きもの」を見かけることがない。これでは世界に誇る民族衣装と言うより、遺産衣装ではないだろうか。通常、民族衣装と言えば平時でも冠婚葬祭時でも多くの人々が着用し、誰でも気軽に購入し易いものであるはずなのに、今では特殊な階級かある程度金銭的に余裕を持っている人でなければ求めることができない。しかも、世界に誇る民族衣装を扱っている業界人自身着用していない。明治に入って来た西洋服が仕事着になっている。

でも、それが日本人の大きな精神文化である。体に馴染んでもいない西洋服を着用し、さも国際人になったような気になり、これまでの伝統文化をなおざりにしても平気でいる。口では伝統文化だの民族衣装だのと言っても、日本人の本質はあらゆるものを融合させてしまう。

日本人は洋服も着ます、浴衣も着ます、ジーパンも穿きます。「何でも有り」なのです。衣文化は現状、食文化もまさにバイキング、住文化は和洋折衷。外国人から観れば楽しい民族でしょうね。

きもの文化に関しても世界の染織技術を融合させたものであり、これからも日本人が本来持つ融和性であるべきだろう。特に若い世代に関しては、洋服・「きもの」などを融和させ、自分自身の国風化を考えれば良い。日本人が日本人であるべきとすれば、「何でも有り」の思いで「きもの」を楽しんでいただきたい。

いろいろな組み合わせを批判や躊躇する人は、本当の日本の「きもの文化」を理解されていない人であろう。でも、そのような人でも、私生活面では和洋折衷のはずです。「きもの文化」を肩苦しく応用性を少なくしたのは、「きもの業界人」そのものです。

日本の染織文化・伝統衣装・きものを守るには日本人特有の融和性を基本にすべきであり、誰でも気軽に「きもの」を着て楽しめる環境を創らなければなりません。

「きもの」を着る方が少なくなれば、民族衣装や伝統文化などは言えないはずです。業界人の方々が目覚めなければ、本当に「きもの」が消えてしまいます。

「きもの」の未来は考えれば「上善如水」の精神が必要です。水は如何なる環境に適合し、四角い器には四角に納まり、丸い器には丸く、熱くなれば蒸発し、冷えれば水に戻る。「きもの」は如何なる人にも適合し、如何なる寸法にも適合する。昨今、体型も変化し、以前のような寸法では着られない人がおります。体型的に着られない人が増加しつつあるのに、業界自体その手立て・対策・商品開発を行っておりません。自由平等であるはずの「きものファション」が限定された不平等な文化になっています。誰でもが気軽に着たい「きもの」、もっと買い易い環境を提案しなければなりません。

寸法の問題もありますが、価格の面でも問題が累積しています。「きもの」は高価なもの、という概念は今更始まったことではありません。日本に絹が入ってから、呉服は上流階級の衣装と言う概念はありましたし、誰も認めています。しかし、その当時にも気軽に着られる衣装は存在していました。絹以外の天然繊維です。江戸中期前までは麻が一般的です。南蛮貿易によって運ばれた木綿は江戸中期以降一般庶民の日常着までに浸透しました。

現在のような高価な「きもの」ばかりではなく、その当時の人々に合った価格や素材が「きもの」になっていたのです。これが先程の如水です。「きもの」という言葉は近年になって生まれた言葉ですが、絹は呉服、木綿や麻は太物と言っていた江戸時代から近年それらを総称して「きもの」になった。「きもの」はすべての繊維を表します。絹・木綿・麻・樹皮繊維類・羊毛・化学繊維など、すべての繊維によって作られ、その形が「きもの」です。ここまで使い分ける業界人はいないと思いますが、後学の為に知っていた方が良いでしょう。如何様にでも変化することができること、それが「きもの」が持つ最大の魅力です。その魅力を封じ込めてしまった張本人が、「きもの業界」だったのです。「きもの」が持つ最大の魅力を活かし、あらゆる人に対応できる「きもの」を復活しなければなりません。四角四面が「きもの」ではありません。方円柔軟な姿こそが「きもの」です。

方円な対応とは、あらゆる人が「きもの」を着用できるように、素材・価格の多様性を持つ。素材としては、絹・木綿・麻・樹皮繊維・羊毛・化繊など、その本人の着用場面にあった素材が気軽に選べるようにする。現在のように「きものは絹に限る」という狭い考えは捨てる。普段着などは絹以外の方が合理性もあります。普段着は礼装に比べれば汚れ易く、痛み易い。そういう場合は価格的にも安価な「きもの」が適しています。普段着に高額商品では常時着用される方が限定されるでしょう。再度、街着と普段着の区別を行いたいものです。

「きもの」における振興は確かに礼装を重んじて来た風潮があります。しかし、昨今の冠婚葬祭状況を鑑みますと、街着や普段着などの「しゃれもの」の振興が基本になるのではないでしょうか。世界中どこを見渡しても普段着に高価な衣装を気軽に着ている民族など皆無に近いです。あれば特殊な階級の人々に限られます。その中に日本の「きもの」も入ってしまったのです。しかも一般の人々が着る当てもなく、購入し着用の機会がないと嘆いております。

その機会がないと嘆いている大勢のお客様がおられながら、一向に着用の機会を提案しない小売業界にも問題があります。

また、業界人自身「きもの」を着用することなく、利益目的の商品として、お客様のことを思うこともなく販売しているのも、「きもの」衰退の原因になっています。普段に、街着や普段着などの「きもの」を着用した経験もなく、どのような素材が普段着に適しているのか、汚れが取れ易いのかを認識しないまま、売上のためにお客様を犠牲にしています。

会社存続のためには売上は当然必要なことですが、専門家として「成すべき事」があるのではないでしょうか。「お客様の立場になって・・・・・云々」をよく耳にしますが、ただ言葉だけであって実際は自分のことしか思っていないように感じます。お客様の立場になることは、まず自分が購入し、着る立場になること、実際着用してみて、着易さ、汚れやシワなどを体験することです。

「仕事中はきものを着よう」この精神が「きもの業界」の一番の発展です。これができずにして、大勢が集まり、「きもの振興」を唱えたところで「馬の耳に念仏」ではないか。しかも、業界人なら一般のお客様に比べれば格安にて購入できるではないですか。

「きもの」を知るためにも、まずは業界人自身気軽に買えて、気軽に着られる「きもの」を提案しなければなりません。業界人すべてが経営者というわけではありません。社員やパートの方々大勢いらしゃいます。その方々の給与で気軽に買えて、気軽に着られる商品、汚れても手入れが簡単な商品、体に良い天然素材の商品。しかし、これらの商品を開発しているメーカーは少ないはずです。しかも、最近の若い世代は体型が大きくなり、通常の反物幅では寸法が合い難くなっています。

誰でもが気軽に着られる「きもの」こそ、次世代の「きもの」になります。
業界人もその家族も、一般の老若男女の幅広い世代から好まれる「きもの」が必要です。特に入門編というべき「気軽に購入できる天然素材のきもの」が求められています。衣料の基本ははやり天然繊維です。それも用途に合わせた選択がよろしいです。礼装用の場に赴くなら絹は光沢があり適しています。また、夏のように汗をかく時期には通気性の良い麻など、普段生活で着用するのは手入れが楽な木綿がよろしいでしょう。本人の生活レベルに合った「きもの」を選べば宜しいのです。常識内のTPOを守れば堅苦しは要りません。これから望まれる「きもの」とは。
次世代における望まれる「きもの」とはどのような「きもの」でしょうか。当然、この心理を探るためにも、自ら着用し、若い世代との交流。若い世代の生活環境を知る必要があります。

自分の収入内で気軽に購入できる範囲の「きもの」が数多くあること。
面倒な着装方法ではなく、普段着の衣装は気軽に着装できること。
お手入れが楽で費用も掛からないもの。
体型に関係なしに素材・生地巾を選択できること。
着装目的や購入資金を考えて素材や価格を選べること。
まずは上記のような「きもの」に対して需要は大きいでしょう。ポイントとしては価格・素材・生地巾・手入れです。このポイントを基本に考え、次世代の「きもの」を構築しなければなりません。業界内のデーターから見れば、若者が気軽に買える購入価格は三万円くらいまでと言われていますが、最近のアンティークきものブームの影響で平均価格はより下がっています。確かに仕立上がって三万円となれば現在の商品と国内仕立では当然価格設定に無理があります。古着のような仕立上がった「きもの」ならば可能ですが、新反から仕立てると原価を割ってしまいます。社会全体が低価格市場になりつつある中、「きもの業界」もその流れに乗る必要も一部あるでしょう。「きもの」全体は無理としても次世代の入門編の「きもの」はその範囲内であるべきです。

次世代の「きもの」としては価格面と生地巾から考慮すれば、海外の生地を使用するのが最適でしょう。前述の通りに元々日本は海外からの染織文化の影響を受けて、日本の「きもの文化」を形成した経過があります。日本の「きもの」を守るためにも次世代の「きものファン」を育てなければなりません。現在の「きもの業界」は次世代を考えておりません。特にメーカーの立場からすれば、価格、生地巾などを変更すれば過大な投資や利益減少につながり、目先の売上対策としては当てになりません。今すぐに利用ができて、それらの条件に合う素材生地巾は海外の生地しかありません。特に価格面では尚のことです。

布座の立ち上げ以来、少しずつではありますが、広幅生地に対する考えを持つ小売店も増え始めました。でも、まだ多くの小売店では次世代に対する対応を行っておりません。21世紀の望まれる「きもの専門店」は必ずしも逸品物や伝統織物ばかりではありません。次世代への対応も優れ、その世代に合った商品揃えも十分に用意されている専門店に多くの若者が集まることでしょう。どのような人も気軽に「きもの」を楽しめる、いつでも「きもの」を着ることができる、普段でも「きもの」を着て生活できる。そのような時代がまもなく訪れて来ます。

海外の染織品には日本以上にすばらしい作品が多く、現在の日本では消えた染織文化が数多く残っております。また、その地や染織品は逆に日本の「きもの」の原点でもあったのです。日本人の持つ天性的な融合力を以ってすれば、呉服から始まった「きもの文化」に戻せるのではないでしょうか。困った時は原点に戻れといいます。今、「きもの業界」は従来の展開では頭打ちです。このような時だからそこ、「きもの」が持つ融合性という原点に戻りましょう。

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